『新訳 弓と禅』 オイゲン・ヘリゲル /著 魚住 孝至/訳 角川ソフィア文庫
ヘリゲルが師事した師範が、真っ暗ななかにある的に第一矢を命中させ、続けざまに第二の矢を射、第一の矢の矢筈を割くというエピソードはよく知られていますね。師範の、的に当てようとしはいけない、ただ弓を引いて、矢がひとりでに離れるまで待っていなさい、との指導に困惑しながらも修練を積む過程が描かれています。「無心」にならなくてはいけないのですが、それを考えるほど無心から遠ざかるようです。ドイツの哲学者であったヘリゲルにとってはなおさらでしょう。稽古を始めて5年目で体得したようですが、西洋の合理的な思考と日本的な無心のこころを備えることは、ヘリゲルにとってだけでなく、現代の日本人にとっても大切なことのように感じます。私は以前岩波文庫版で読みましたが、KADOKAWA版は読みやすくなっているようです。(図書館長)